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第2章『新しい景色』 〜4〜

目次

データが示す未来

午後三時。

「これを、垣内さんの資料にも活かせるはずです」

江口さんと考えを整理していると、山田さんが声をかけてきた。

「浅見さん、垣内さんから追加の資料が届いているんですが、一緒に見ていただけますか」

メールには、朝の打ち合わせを受けて、工場でまとめてくれたという技術資料が添付されていた。職人たちの独自の加工技術について、詳細なデータが記されている。

「これなら…」

私は思わず江口さんと顔を見合わせた。午前中に発見した中小企業特有のパターンと、この技術データを組み合わせれば。今までにない提案ができるはず。データが示す反応パターンと、職人たちが築き上げてきた技術力。その二つを結びつける方法が、私たちには見えていた。

「山田さん、オンラインでの打ち合わせ、お願いできますか」

心臓の鼓動が早くなるのを感じる。これは、私たちが見つけた可能性を、初めて形にするチャンス。机に広がる技術資料とにらめっこしながら、企画書の構成を組み立てていく。

一時間後。小会議室のモニターに、垣内さんの姿が映し出される。背景には工場のオフィスらしき空間が見えた。

「お待たせしました。早速ですが、御社からいただいたデータを分析し、簡単な企画書を作ってみました」

画面共有を始める。その瞬間、垣内さんの表情が変わった。

「これは…」

画面には、私たちが発見した中小企業特有のパターンと、垣内さんの会社の技術力を組み合わせた新しい戦略が示されている。

「浅見さん、この数字の見方は面白いですね」

画面越しでも、垣内さんの目の輝きがはっきりと伝わってくる。技術者の直感が、データの中に可能性を見出している。

「はい。実は、中小企業の広告運用には、大手とは違う効果的なパターンがあることが分かってきて」

言葉が自然と流れ出る。この提案には、江口さんとの発見も、私たちの新しい野心も、全てが詰まっている。

「御社の金属加工技術は、従来の広告手法では伝えきれない価値を持っています。だからこそ、こういったアプローチを」

画面を切り替えながら説明する。ターゲットの選定方法、広告の出稿パターン、そしてコンテンツの作り方。全てが、中小企業ならではの強みを活かすために組み立てられている。

「なるほど」

垣内さんがメモを取りながら頷く。モニター越しでも、その表情には技術者としての鋭い視点が感じられた。

「実は、朝から職人たちと話し合って、追加の技術資料を作らせていただいたんです。この独自の加工方法について、もう少し詳しく」

画面の向こうで、垣内さんが新しい資料を手に取る。私たちの提案が、すでに工場全体を動かし始めているのが感じられた。

「では、これらの技術データも組み込んで、より具体的な戦略を練り直させていただきます」

モニターの電源を切りながら、大きく深呼吸をする。初めてのオンラインプレゼン。でも不思議と緊張よりも、これから始まる新しいことへの期待が大きかった。

「浅見さん、すごかったです」

江口さんの声に、山田さんも頷く。

「ありがとう。でも、これはまだ始まりかな」

そう言いながら、パソコンで新しいファイルを開く。中小企業向け広告戦略の可能性は、ここからもっと広がっていくはずだから。


夕方の光が差し込むオフィスに、キーボードを叩く音だけが響く。

「これ、面白いですね」

江口さんが画面に見入っている。垣内さんとの打ち合わせ後、私たちは中小企業のデータベース作りに没頭していた。

「うん。規模も業種も違うのに、似たようなパターンが出てくるでしょ」

クライアント一社一社のデータを丁寧に見ていく。大手企業の手法では見えてこなかった、確かな手応えがそこにはあった。

「あっ、この数字の動き、垣内さんのところと全く同じです」

江口さんが、突然声を上げる。
グラフを重ねてみる。確かに、その通りだ。

「他の町工場も、職人さんの技術が売りなんです。きっと、同じように悩んでいるはず」

言葉に力がこもる。午前中の朝礼での発見、垣内さんとの打ち合わせ、そして今。全てが、大きな可能性に繋がっているような予感がした。

「浅見さん、こういうデータって」

江口さんが、少し言いにくそうに切り出す。

「他の代理店には、ないんでしょうね」

その言葉に、静かに頷く。私たちは今、誰も気づいていない価値を見つけ出そうとしている。

「そう、だからこそ」

自分の手帳を開く。今朝書き留めた「独立」の文字が、夕陽に照らされて見える。

「これって、私たちの」

江口さんの声が、途中で止まる。でも、その先にある言葉は分かっていた。私たちの、新しい挑戦。誰もやっていない、でも、絶対に必要とされているはずのサービス。

「江口さん」

画面から目を上げる。

「この発見を、もっと活かせる方法を考えたいの」

夕暮れのオフィス。人影もまばらになってきた空間で、私たちは未来を描き始めていた。

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