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第2章『新しい景色』 〜5〜

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二つの決意

「でも、まずは目の前のプロジェクトからですよね」

その言葉に、私は小さく頷く。机の上には、垣内さんの技術資料が広がっている。可能性を示すために、まず結果を出さなければ。

「浅見さん、これ見てください」

江口さんが新しいグラフを作っていた。縦軸に反応率、横軸に広告出稿額。中小企業と大手企業では、まるで違う曲線を描いている。

「この分岐点が、重要なんです」

私も思わず身を乗り出す。確かに、ある一定のポイントから、その差は明確になっていく。

「つまり、予算の”量”じゃなくて」

「”質”の違いなんですよね」

言葉が重なる。これこそが、私たちが見つけた核心。中小企業には中小企業なりの、最適な広告戦略がある。それは決して、大手の手法を小さくしただけのものではない。

「このデータ、もっと細かく見ていきましょう」

江口さんがグラフを拡大する。クライアントの業種、規模、そして広告出稿のタイミング。様々な要素を組み合わせると、より鮮明なパターンが見えてくる。

「職人さんの技術が売りの会社は、特にここが」

画面上で複数のグラフが重なり合う。その交差点に、私たちは新しい可能性を見出していた。

「浅見さん、垣内さんのところの予算で、こういうアプローチはどうですか?」

江口さんが新しい案を示す。従来の常識では考えられないような配分だけど、このデータが示す最適なポイントがある。

「そう、このタイミングで」

キーボードを打つ手が止まらない。次々と新しいアイデアが浮かんでくる。今まで見過ごされてきた価値を、どう引き出すか。限られた予算を、どう効果的に使うか。

「これ、私たちにしか見えていないかもしれないですね」

江口さんの言葉に、静かな興奮を覚える。データに裏付けられた確信。そして、その先にある大きな可能性。

「では、具体的な施策に落とし込んでいきましょう」

新しいファイルを開く。垣内さんの技術資料と、私たちのデータ分析を組み合わせながら、前例のない広告戦略が形になっていく。

「まず、この技術をどう見せるか」

画面に向かいながら、私は考える。これは単なる広告プランではない。私たちが見つけた可能性の、最初の実証になる。

外は、すっかり夜の闇が深まっていた。いつの間にか、オフィスはほとんど人がいない。でも、不思議と疲れを感じない。むしろ、次々とアイデアが浮かんでくる。

「明日の朝一番で、これを形にしましょう」

江口さんが頷く。二人とも、まだまだやれることがある気がしていた。

カバンに資料を詰めながら、手帳を開く。朝に書いた「独立」の文字が、また目に留まる。その横に、小さく新しい言葉を書き加える。

「中小企業専門」

隣で資料を整理していた江口さんが、ふと私の手帳に目を落とす。

「あ、すみません。覗き込むつもりじゃ…」

慌てて謝る江口さんに、私は静かに首を振る。

「実は私も、ずっと考えていたんです」

江口さんの声が、いつもより少し低く響く。

夜のオフィスに、静かな空気が流れる。まだ漠然とした未来図。でも、二人の間で確かに共有された、新しい可能性。

「まずは、明日からだね」

PCの電源を切りながら、垣内さんへの提案を思い返す。これが、私たちの最初の一歩になる。

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